設立前に個人で払った研修費や交通費は、どこまで創立費・開業費にできますか
お聞きしたいことは次の3点です。
1. 設立前の費用を遡って計上できるのは、実務上どこまでですか(半年/1年/それ以上)。
2. 次のものは創立費または開業費に入りますか。入らないものがあれば教えてください。
・業務に関連する研修や資格取得講座の受講料
・打ち合わせの飲食代、交通費
・異業種交流会の参加費、懇親会費
・名刺、チラシの制作費
・会計ソフトの年間利用料 約11万円(設立前に個人カードで支払済み)
・生成AIツールの月額利用料、書籍代
・経営コンサルタントへの顧問料 月3万円
3. 交通費など領収書が出ないものは、どう記録すれば足りますか。
【前提】
・2026年10月設立予定の株式会社。代表取締役1名のみ。決算期9月
・現在は個人事業主として同種の仕事をしており、青色申告をしています
・上記はすべて個人名義のカード・現金で支払っています
あわせて、繰延資産として任意償却できるという理解で合っているか、1期目に全額を計上するのと翌期以降に回すのとで、どちらを選ぶかの判断基準もご教示ください。1期目は赤字の見込みです。
1. 設立前費用の遡及期間
実務上、設立前の費用を遡って計上できる期間は一般的に1ヶ月〜数ヶ月程度、最長でも1年が限度とされています。
税法上で明確に「〇ヶ月前まで」という期間の規定はありません。しかし、設立に「直接必要な費用」である必要があるため、あまりに長期間前のものは法人のための支出として認められにくくなります。今回は現在すでに個人事業主として活動されているため、「個人事業の経費」と「法人の設立準備費用」を明確に区別する必要があります。10月設立であれば、早くとも2026年に入ってからの支出(約10ヶ月前まで)が実務上の限界ラインと考えられます。
2. 各項目の創立費・開業費の判定
ご提示いただいた項目はすべて創立費または開業費として計上可能です。法人の事業を開始するために「直接要した費用」と認められるためです。それぞれの分類と注意点は以下の通りです。
業務に関連する研修や資格取得講座の受講料
開業費に含められます。ただし、代表者個人のみに帰属する国家資格の取得費用などは、個人の資産とみなされて法人の経費(開業費)にできないケースがあるため注意が必要です。
打ち合わせの飲食代、交通費
開業費(交際費・旅費交通費の性質を持つもの)に含められます。
異業種交流会の参加費、懇親会費
開業費(交際費等の性質を持つもの)に含められます。今後の取引先開拓のための支出として説明できるようにしておきます。
名刺、チラシの制作費
開業費(広告宣伝費の性質を持つもの)に含められます。
会計ソフトの年間利用料(約11万円)
開業費に含められます。11万円という金額ですが、会計ソフトのライセンス利用料(通信費や消耗品費の性質)であれば、一括して開業費としてまとめて問題ありません。
生成AIツールの月額利用料、書籍代
開業費(通信費・図書費の性質を持つもの)に含められます。
経営コンサルタントへの顧問料(月3万円)
開業費に含められます。設立や開業準備のための経営指導料として合理的な支出です。
※なお、会社の設立登記そのものにかかった費用(公証人の手数料、登録免許税、司法書士への報酬など)は「創立費」、設立登記後から事業開始までにかかった費用(上記のご質問内容など)は「開業費」に区分します。
3. 領収書が出ない交通費などの記録方法
領収書が出ない公共交通費などは、「出金伝票」を作成するか、Excelなどで「旅費交通費精算書(移動明細)」を記録すれば十分です。記録すべき必須項目は以下の4点です。
支払った日付訪問先や目的(例:〇〇株式会社 設立打ち合わせのため)移動区間(例:〇〇駅 〜 〇〇駅、片道/往復)金額
現在は個人名義のカードや現金で支払われているとのことですので、カードの利用明細と合わせて、これらの明細(出金伝票)を保管しておけば税務調査でも問題なく認められます。
繰延資産の任意償却と判断基準
「任意償却ができる」というご理解は完全に正しいです。創立費と開業費は、税法上で「繰延資産」となり、税法上の原則は5年(60ヶ月)の均等償却ですが、特例としていつでも好きな時に、好きな金額を費用化できる「任意償却」が認められています。極端に言えば、設立1期目は0円、2期目に全額といった処理も可能です。今回、「1期目は赤字の見込み」とのことですので、1期目は全額を計上せず、翌期以降に回す(繰り延べる)のが最も有利な判断基準となります。赤字の会社がさらに費用を増やしても、当面の節税メリットがないため1期目に全額を費用(償却)してしまうと、赤字の額が膨らむだけになります。黒字化した期に費用化することで、ダイレクトに法人税を減らせるため創立費・開業費を資産として残しておき、2期目以降に利益(黒字)が出たタイミングで必要な分だけ償却(費用化)すれば、その期の利益を圧縮して法人税を安く抑えることができます。したがって、1期目の決算では創立費・開業費を「資産」のままとし、償却費は0円(または赤字を増やさない程度の少額)にしておくことをおすすめします。
- 回答日:2026/09/02
- この回答が役にたった:1
ご回答ありがとうございました。おかげで領収書を集める範囲が定まりました。関連して、もう一件ご教示ください。
今月19日から2泊3日で、来年商品化したい介護旅行の候補地を視察します。新幹線往復・宿2泊・レンタカー・懇親会費を個人名義で支払います。
一点目。設立前の視察であり、私は現在も個人事業で同種の事業を行っております。この旅費は個人事業の経費とすべきか、法人の開業費とすべきか、判断の分かれ目を教えてください。
二点目。日程には現地の名産品の買い物や飲食、以前からの知人との私的な交流も含まれます。私は立ち寄り先の下見のつもりですが、外形上は観光と区別がつきません。按分は必要でしょうか。必要な場合、日数按分と時間按分のどちらが実務で通りますか。
三点目。出発前に視察計画書を用意しておくなど、事前にしておくとよいことがあればご教示ください。
投稿日:2026/09/14
ご質問ありがとうございます。設立前に個人で払った費用を、会社の費用にできるのかどうかは、よく迷われるところですよね。3点とその前提の整理を、順にご説明します。
まず大切な前提として、今回は「個人事業主として同種の仕事を続けている」状況です。そのため、同じ費用が個人事業の必要経費にも、会社の開業費にもなり得る点にご注意ください。二重に計上はできず、どちらの事業のための支出だったかを決める必要があります。
① 「どこまで遡れるか」
法人税法施行令14条1項では、創立費は「法人の設立のために支出する費用」、開業費は「法人の設立後事業を開始するまでの間に開業準備のために特別に支出する費用」と定められています。私が条文を確認した範囲では、遡れる期間(半年、1年など)を定めた規定はありませんでした。期間の長さよりも、「会社の開業準備のために、特別に支出したもの」で、会社が負担する整理ができるかどうかが判断の軸になります。
② お示しの項目の考え方
・資格取得講座や研修:ご本人の知識習得という性格が強く、開業費に入らない場合があります。
・打ち合わせの飲食代、交通費、交流会費:会社の開業準備に関するものと説明できれば開業費になり得ますが、個人事業の営業のためのものは個人の経費です。
・名刺、チラシ:会社名で作る開業のための費用であれば、開業費として整理しやすい項目です。
・会計ソフト:会社の設立後の期間に対応する部分は前払費用の考え方になり、開業費とは別です。
・顧問料:設立の登記や手続きの専門家への報酬は創立費に該当し得ます。経営の継続的な相談は別の扱いです。
③ 領収書のない支出
日付、場所、目的、区間や相手先、金額を、出金伝票などに書いて残してください。電車やバスなどは、あとから行程が追える形にしておくと説明しやすくなります。
④ 任意償却と判断の基準
創立費と開業費は繰延資産で、償却する額を自分で決められます(同施行令64条1項1号)。償却するには、その期の決算で損金経理(費用として計上)することが必要です(法人税法32条1項)。1期目が赤字の見込みなら、全額を1期目に費用にすると欠損金が大きくなり、翌期以降の黒字と相殺する形になります。どの期に費用を持っていくかは、今後の利益の見通しや融資の際の決算書の見え方で判断が分かれます。
⑤ 設立前の支出を会社が負担する手続き
設立前の費用を会社が負担するには、定款への記載など会社法上の整理が必要になる場合があります(会社法28条4号)。設立手続きを依頼されている専門家に、あわせてご確認ください。
少しでもお役に立てれば幸いです。
※本回答は一般的な情報提供を目的としたものです。詳細な判断は管轄の税務署への確認や、税理士への個別相談をお願いいたします。
- 回答日:2026/10/19
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回答した税理士
年商3,000万円未満の個人事業・小さな会社専門|ふじみの会計事務所(公認会計士・税理士)|決算だけのスポットもOK・全国オンライン
- 認定アドバイザー
- 埼玉県
税理士(登録番号: 150146), 公認会計士(登録番号: 32993)
回答者についてくわしく知る ご質問の3点について、実務上の判断基準と具体的な対策を記載します。
1. 個人事業の経費か、法人の「開業費」かどちらの事業の目的が主であるかによって判断が分かれます。税務上、以下の基準で判断します。
個人事業の経費(旅費交通費など)とする場合
判断基準: 今回の視察が、現在行っている個人事業の売上を維持・拡大するため、または現在の事業の延長線上のメニュー開発である場合。
特徴: 今期の確定申告で即座に経費化できます。
法人の「開業費」とする場合
判断基準: 今回の視察が、個人事業とは切り離された「新法人独自の事業」のためであり、10月の設立に向けた「法人としての準備行為」であると明確に説明できる場合。
特徴: 設立後に「開業費」(繰延資産)として計上し、法人が黒字化してから任意のタイミングで自由に償却(経費化)できます。
実務的な判断のアドバイス
今回は「来年商品化したい」とのことですので、法人の開業準備期間(直前1ヶ月)の動きとして法人の「開業費」とする方が自然かつ税務メリット(将来の黒字との相殺)が大きいと考えられます。ただし、領収書が個人名義でも、設立後に「開業費」として法人に引き継ぐことは問題ありません(精算書を作成します)。
2. 私的混入がある場合の「按分」について
私的な部分の「按分(または除外)」は必須です。外形上「観光」と区別がつかない場合、全額を経費にすると税務調査で否認されるリスクが非常に高くなります。日数按分 vs 時間按分実務において最も通りやすいのは「日数按分」です。
按分方法実務での評価・適用の目安
日数按分(推奨)が一般的な実務慣行です。 3日間のうち「2日視察、1日観光」なら2/3を経費にします。新幹線代などの往復交通費は、視察が主目的であれば全額(または日数比率)で認められます。時間按分原則として不要(細かすぎるため非推奨)です。ただし、「1日の半分だけ観光した」という日がある場合、その日のホテル代やレンタカー代を50%にするなど、日数をベースに微調整する形で使います。
買い物の注意点
現地の名産品の買い物や飲食について、「商品開発のための試食・試買」であれば経費(研究開発費や会議費)になりますが、単なる「お土産」や「個人的な食事」は按分ではなく「全額除外(プライベート)」として処理してください。知人との私的交流の飲食費も同様に除外します。
3. 出発前に用意・実施しておくべきこと
税務調査官に「これは観光旅行ではない」と一発で納得させるための「客観的な証拠」を事前に作っておくことが最も重要です。
視察計画書(行程表)の作成(出発前)
「〇時〇分:〇〇施設 下見(バリアフリー状況の確認)」など、介護旅行の視察であることが分かる具体的なスケジュールを分単位・時間単位で記載した計画書を出発前に作成し、印刷またはデータで保存しておきます。
「チェックリスト」や「評価シート」の用意(出発前)
現地で確認すべき項目(車椅子のルート、スロープの有無、スタッフの対応、介護食の対応可否など)をまとめたメモやシートを用意しておきます。
現地での写真撮影と記録(滞在中)
単なる観光写真ではなく、「介護旅行の候補地として検討した証拠」となる写真(スロープ、多目的トイレ、段差、移動経路など)を撮影します。
視察報告書の作成(帰宅後速やかに)
視察の結果、その候補地が「介護旅行として適しているか否か」の結論や課題をまとめたレポートを残します。
- 回答日:2026/09/14
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